Skole と日常のクロッシング その6(0902)

Skole 2nd season method6 「味わう」

 

report by 越川陽介

 

夏の暑さの中、そよぐ風に秋の訪れが感じられる土曜日の午後、Skoleのmethod6 「味わう」が開催されました。本日の講師は高野雅司先生です。

高野先生を初めてお見かけしたのは、昨年の5月に創元社の一室をお借りして開かれた関西ソマティック・プラクティショナー・ネットワーク(久保隆司先生主催)という集まりに参加させていただいたときでした。その会の中でお話いただいたラビングプレゼンスの考え方がとても興味深く、ぜひ学んでみたいなと思ったのが記憶に残っております。今回このSkoleの講座でお話を聞けるのでとても楽しみでした。

 

今回の内容は以下の通りでした

・ハコミとは?

・ワーク①:ハコミ的マインドフルネス

・マインドフルネスの応用:アタマとココロのボリューム調整

・ワーク②:からだ、から、こころ、にアプローチするワーク

・マイナス思考の治し方

・ラビングプレゼンス〜世界を味方につける関わり方

・ワーク③:ラビングプレゼンスを体験する

 

・ハコミとは?

はじめに高野先生はハコミセラピーについて説明をしてくださいました。

ハコミセラピーは1980年代にアメリカで生まれた心理療法で、マインドフルネスを初めて応用した心理療法の一つだそうです。

昨今マインドフルネスを応用した認知行動療法が有名になりつつありますが、ハコミセラピーでは違う文脈で用いられたようです。ちょうどジョン・カバット・ジン先生が始めたマインドフルネスストレス低減療法と同時期に、ロン・クルツ先生がハコミセラピーを始めたそうです。ハコミセラピーのマインドフルネスは認知行動療法のそれと比べるとソマティック寄りのマインドフルネスだそうです。

 

また、「ハコミ」というネーミングの由来も合わせてお話ししてくださいました。この「ハコミ」は「Hakomi」と書きます。そして、アメリカの先住民族であるホピ族の言葉で「あなたは何者ですか?」という意味を持っているそうです。

ロン・クルツ先生が仲間たちと大々的にハコミセラピーを広めていこうと話をしていた時に、実はまだ名前がなかったそうです。なかなか命名することができず煮詰まっていた時にメンバーの人が夢を見たそうです。その夢の中でロン・クルツ先生が夢を見たメンバーに紙切れを差し出したそうですが、なんとそこに「ハコミ」と書かれていたそうです。翌朝他のメンバーに確認したところ、誰もその言葉の意味を知らなかったので調べてみると、ホピ族の言葉だったそうです。言葉の意味が自分たちのやりたいことにぴったりだったことや、語感が良かったことから「ハコミ」という名前が付けられたそうです。ハコミは西洋的なソマティックなアプローチでありながら、東洋的なタオイズム的な要素が入っていることから、ロン・クルツ先生はこの名前を気に入っていたそうです。

 

・ワーク①:ハコミ的マインドフルネス

本日最初のワークではハコミ的なマインドフルネスを紹介していただきました。ウォーミングアップでからだを軽く緩めた後、呼吸に意識を向けていきました。吸った空気が体のどのあたりまで来ているか、吸った時と吐いた時の空気の温度の違いはどうか、などを感じていきました。

その後に、体全体に意識を向けていきました。そして、丁寧に体を感じているとどんな気分になってくるかに注意を向けてみました。マインドフルに体の感じや感情、思い出したこと、映像などを、分析や解釈することなくシンプルに受け止めます。

そしてその状態で高野先生が以下のように声をかけました。

「他の人と自分を比べなくても大丈夫ですよ。」

そう声をかけられて、自然とからだに起きた何かに注意を向けてみました。

この最後の言葉がけがハコミ的、つまりマインドフルネスを応用したやり方だと高野先生はお話しされていました。

 

・マインドフルネスの応用:意識と無意識の声のボリューム調整

人の意識と無意識に“声”があるという喩えを用いて、心理療法のアプローチとしてマインドフルネスを応用する仕方について説明をしてくださいました。

高野先生は、心理療法の方法は違えども「無意識のメッセージにどうやって気づいていくか」が心理療法の目的となっていると話します。しかし、意識と無意識にはそれぞれ特徴があり、意識は常に忙しくぺちゃくちゃと何かを喋っています。一方の無意識はメッセージを発しているもののその声はとても小さくなかなか届きません。このため、どのように無意識の声を聞くのか大切になります。

一つのアプローチは「無意識の声を大きくする」アプローチです。出てきたシグナルを大きくするようなアプローチで、例えばアートセラピーやドラマセラピーなどはこちらのアプローチを取ることが多いようです。

もう一つのアプローチはこれとは逆で「意識の声を小さくする」アプローチです。そうすることで無意識の声をキャッチしやすくするそうです。多くの心理療法は前者のアプローチを中心に添えることが多く、後者のアプローチを取る心理療法は少ないと話します。その中でハコミは後者の部類に入り、マインドフルネスによって意識の声を小さくするようです。ハコミでは意識の声を小さくした状態でいろいろな“実験”をしていくことで、何が起きていくのかを確認していくようです。

ワーク①でも「他の人と自分を比べなくても大丈夫ですよ。」という声かけをして何が起こるかを見ていきました。普段だったら頭で処理される言葉であってもマインドフルネスの状態ですると無意識に伝わりやすくなり、無意識が反応しやすくなるとのことでした。その反応はその人なりの意味があり、その起きてきたことを尊重しながら、どういう意味があるのかを深め気づいていくのがハコミのマインドフルネスを応用した心理療法とのことです。

もう一点マインドフルネスを心理療法に応用する意味があると高野先生は話しされます。

マインドフルネスは仏教瞑想から来ており、瞑想は自分自身の魂、霊性、その人自身の本質につながっていくための実践です。その状態でセラピーをすることで、ある種クライアントさんが深いところで自分自身の本質と繋がるため、その人の癒しの力や英知が活性化されやすくなるそうです。そしてセラピストは癒しの力をどう引き出して、それに絶対的な信頼を置いてどう寄り添うかが、セラピストの大切な在り方になってくるそうです。

 

・ワーク②:からだ、から、こころ、にアプローチするワーク

ソマティックはソーマ(soma, からだ)という言葉の形容詞として用いるそうです。解剖学的な構造としてのからだ(body)と対比してソーマは生きて存在しているからだ、生身のからだ、というニュアンスを持っているそうです。このためソーマとしての“からだ”は“こころ”を伴ってきます。

ハコミセラピーは、こころを含めた東洋的なイメージとしての人間のからだを扱っており、ハコミもソマティックのアプローチの一つだと話されました。2つ目のワークではハコミのソマティック心理学としての一面をみんなで体験しました。

 

ペアになり、1人は横になって言葉は使わずに今自分が気がかりに思っていること、困っていること、悩んでいることなどを思い出します。そしてからだに何か反応があるかに注意を向け、気づいておきます。パートナーに反応があった部位に触れてもらい、必要であれば位置の調節を行います。触れてもらっている場所で落ち着いてきたらパートナーは「もしこの手があなたに言っているとしたらなんと言っていますか?」と伝えます。そう伝えられたことでどんなことが思い浮かぶかを感じてみて、浮かんできたらパートナーに教えます。パートナーは教えられた言葉を本人がぴったりくるようなテンポ感や言い方、ニュアンスに調整して伝えます。そして十分に満足したら目を開けて終了です。

高野先生は今のエクササイズの良い点として問題について話さなくてもいいところだと話されます。言葉を使ってやり取りをしていくとこんがらがっていき、ああでもない、こうでもないと分析してかえって分かりにくくなってしまいます。しかし、からだは正直なので、身体が起こっていることに寄り添っていくことで癒しに繋がっていくとのことです。これが“からだ”から“こころ”にアプローチする良い点であり、これに加えマインドフルネスを用いてからだにアプローチすることは効果的であると感じているとお話ししてくださいました。

 

・マイナス思考の治し方

今日1日を振り返って良かったことと嫌なことを思い出してください。

そう言われた時に皆さんはどちらの方がすぐに思い出せるでしょうか? たいていの人はこういう時には嫌だったことの方がすぐに思い出されてしまいます。嫌なことばかり思い出してしまう自分はなんてマイナス思考なのだろう。そう思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれには太古の記憶と脳が関わっているようです。

基本的に脳はマイナス思考でできています。その理由は狩猟時代にまで遡ります。当時人間は狩りをしながら生活をしていました。その当時の最優先事項は、いかに食料を確保するか、そして、いかに外敵から身を守るか、という2点でした。

前者の場合、空腹になるものの、その日のうちに食料を確保できなくてもすぐに死んでしまうということはありません。一方で後者の場合、判断を誤るとそれは死に直結してしまいます。このため、周りに危険はないかを探し出し、危険な場所はしっかりと記憶してすぐに思い出せるように脳にプログラミングされているようです。命を守るための行動がしっかりと我々の脳に根付いているのですが、外敵からの危険が以前より少なくなった現代においては、この嫌なことを見つけ出したり、すぐに思い出せる能力というのは少々不都合な場面が増えるようになってきました。

しかし、最近の科学の発達により脳の仕組みについてもだんだんと分かるようになってきました。このことから、どうしたら脳がマイナスなことだけではなく、プラスのことにも感度が上がるのかも分かるようになってきました。

そのキーワードが「心地よさ」です。具体的には、何かいいことがあったときに起きてくる心地良い感覚に気付いてじっくり感じることが良いそうです。日常生活の中で感じる、嬉しいな、楽しいな、美味しいなというような体験をするとからだに反応があるそうです。その感覚にじっくりと浸ることによって脳内で新たなシナプス結合がされていき、プラスのことに対する感度が上がるとのことです。

日常の中では見過ごされがちなこの感覚を見逃さないようにしていくことで、どんどんとネガティブなことばかりを拾ってしまう癖が改善されていくようです。この様に嬉しいなと感じた時に出てくるからだの反応がナリッシュメントと呼ばれるもののようです。

 

・ラビングプレゼンス〜世界を味方につける関わり方

そして本日のメインであるラビングプレゼンスについて説明していただきました。

ラビングプレゼンスは人と関わるときの在り方を指します。ハコミセラピーではマインドフルネスを行う前提としてセラピスト側がラビングプレゼンスの在り方になるが基本となります。この考え方は、対人援助を生業にしている人にとってはベースとなるスキルにもなりえ、また、どんな人とのコミュニケーションの中でも必要となる普遍的な在り方でもあります。

このため、普段の生活にも用いることができるとのことです。ラビングプレゼンスはloveの現在進行形「loving」と在り方という意味合いの「presence」を組み合わせたものです。

さて、このラビングプレゼンスですが、人との関係を作っていく時にとても大切になってきます。皆さんは人と関係を作っていく時にどの様に作っていくでしょうか?

一般的によくあるパターンは「相手に合わせて、自分から相手の方へ寄っていく」というパターンです。距離を縮めるために、相手の考え方に同調したり相手のペースに合わせたりと、そういうことをしていくと思います。しかし、これには落とし穴があります。その落とし穴とは相手に自分の思いを伝えることが難しいということです。関係を作ろうとするあまり相手に合わせ過ぎてしまい、自分の考えとは違うことにも賛同しなければならなかったり、自分の思いを伝えることができなかったりしてしまいます。短期的な関係性であれば我慢すれば良いかもしれませんが、長い間関係を続けていく場合はいつか破綻が来てしまいます。では、お互いが健康的に関係を続けていくためにはどうしていったらいいのでしょうか?その答えがラビングプレゼンスにありそうです。

「自分が相手に与える」という関係構築に対して、ラビングプレゼンスは「相手から受け取ることから始める」という関係構築をしていきます。相手の存在を感じて、何かその時の自分にとってナリッシュメントになることを感じ取ろうとしてみます。そうしていくうちに、相手から受け取った心地よい感じに気づくことができます。それを十分に味わうことで、自分自身が心地良い状態になります。そうするとその良い状態が相手にも伝わり、良い雰囲気がその場に生まれます。

なぜこんなことが起こるのでしょうか?

ラビングプレゼンスをすることで相手にも良い雰囲気が伝わる2つの理由を紹介していただきました。

一つはミラーニューロンが関わっているそうです。ミラーニューロンは他者の行為の意味を理解したり、意図を理解するときに働くニューロンのことを指します。このミラーニューロンを介して楽しそうな雰囲気、心地良い雰囲気が相手に伝わって、相手も良い気分になりやすいそうです。

そしてもう一つは、自分が心地よくなるきっかけになってくれている相手に対して、自然とありがたい気持ちになって「しまう」そうです。意識的に相手を受け止めようとか尊重しようとするのではなく、自然とそういう気持ちになることで良いエネルギーの循環が生じると説明してくださいました。

 

・ワーク③:ラビングプレゼンスを体験する

説明の後はワークでラビングプレゼンスを体験しました。

まずはウォーミングアップとしてナリッシュメントを得たときのことを思い出してどんな感じがあるかを再確認しました。その後はペアになり、お互い向き合って座り、目を閉じてマインドフルな状態になります。そのあと、心の準備をしてキャッチすることができるようにします。準備ができたら目を開けて、ゆっくりカメラのシャッターがおりる様に目を開けて閉じます。一瞬だけ相手が見え、その瞬間に、その時に必要なものが入ってきます。相手の良いところを自ら取りに行こうとしないことがポイントです。一回で分からなかったら心の準備をしてもう一回。これを繰り返していきます。

大切なのは、ラビングプレゼンスをする前の心の準備です。

普段私たちの脳はマイナスなことが周りにないか探し出してしまう癖があります。ラビングプレゼンスをする最中もそうならないように「このあと目を開けると今の自分に必要な何かが流れ込んでくる」と心の中でしっかりと宣言をします。こうすることで、通常の思考の電波帯からラビングプレゼンスをする電波帯へチューニングを変えるような、そんな効果があるようです。

また、初めてラビングプレゼンスをした場合なかなかうまくいかないことが多いようです。そういう場合はもう一度心の準備をしてトライしてみましょう。何回かやってダメだったら、「そのうち分かるだろう」とまたペアを替えてやってみる、という心持ちでいることが大切だと説明してくださいました。会場ではそれぞれの体験がされているようで参加者の方の顔は生き生きとされていました。

 

******   ******   ******

 

 

Skoleと日常のクロッシング⑧

 

 

 

 

 

 

意識と無意識の調節と”アタマ”と”ココロ”

厳密に言うと日常とのクロッシングではありませんが、ハコミのアプローチを意識と無意識の声の調節を喩えに説明してくださった話を聞いた時に、ここで出てくる意識と無意識という言葉が、池見先生がよくお話しされるthinking mindとフェルトセンスの関係にも似ているように感じました。

丁寧に注意を向けなければなかなか感じることのできないフェルトセンスに対して、アタマから出てくる考えは容易にその過程を邪魔してしまいます。アタマの声がうるさくなればココロの声であるフェルトセンスを捕まえることは難しくなってきます。

第1期のSkoleのmethod6で紹介された青空フォーカシングでも導入として、マインドフルにその場にいることを行います。もしかしたらそうすることでフェルトセンスとやり取りをしやすい環境を作る側面も持っていたのかもしれないなと感じました。

 

 

Skoleと日常のクロッシング⑨

ラビングプレゼンスを普段使いする

高野先生のお話の中でも出ていましたが、このラビングプレゼンスは普段の生活の中に簡単に取り込めるそうです。

もし通勤に電車を使っていたら、とても良い練習場所になるかもしれません。見ず知らずの人へラビングプレゼンスをすることで、どんなナリッシュメントが受け取れるかを、毎日行ってみるのも良いかもしれません。高野先生のお話によると、慣れてきたら目を開けてでもできるようになるため、日常生活で応用が効きやすいようです。また、初対面の人と関係を作っていく上でもラビングプレゼンスをすることによって自分も楽に、そして安心して関係を作りやすくなるそうです。今までとは違うパターンの関係の作り方を知ることによって明日を生きる幅が広がったように感じました。

 

***********      **************      ************

 

長いようで短いような半年間でしたが、今回でSkole第2シーズンも終了です。

それに伴いましてレポートも今回で一旦終了となります。毎回特色のある講師の方々の語りをこのように文章に起こすことは難しくもあり、責任もある作業でしたが、レポート作成を通して各回の内容を再度勉強することができてとても良い機会でした。また、レポートを読んでくださった方からのフィードバックもあり、とても励みになりました。この場を借りて感謝申し上げます。

次があるかはまだ分かりませんが、次の機会がありましたらそこでまたお目にかかれたら幸いです。半年間ありがとうございました。

シェアをするShare on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterPin on PinterestEmail this to someone